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東建「建設産業再生プログラム」

2000年7月
社団法人 東京建設業協会
建設産業再生プログラム研究会


第3章 中堅・中小建設企業の経営戦略のための指針

I.経営者の戦略の共通認識

  1. 経営者の意識改革が前提
     これまでの建設企業の経営は、景気の好不況、建設需要の増減に合わせ、供給力の拡大減少調節を繰り返すやり方を踏襲してきた。
     この経営は、一見理にかなった手法に見えるが、経営基盤の継続的な強化蓄積、不況時に強い企業体質づくりにつながらない弱点がある。
     また、建設需要が減少し市場価格が下落した際に、需給バランスの崩れを理由に、専門工事業への発注単価や資機材の調達価格を切りつめる安易な手法を選択する結果となってきた。
     そうした経営を選択してきた背景には、不況による建設需要が減少しても、一時的な現象であり、数年辛抱すれば必ず需要が回復するという市場の拡大基調が一貫して維持されてきたからである。
     さらに、不況によって民間の建設需要が停滞しても、官公庁の建設需要が常に一定量確保される恵まれた市場環境にあったからである。特に中小建設企業にとって大きな受注比重を占める公共工事市場が安定的に確保されてきたことが、不況時に強い企業体質をつくることを遅らせてきたといえる。
     この市場の拡大基調と安定的な市場の存在が、「護送船団方式」や「横並び」の経営意識を醸成してきた。
     しかし、国内建設市場の拡大基調は望めなくなり、市場の縮小基調が予想されるに至った現在、従来の経営の発想や手法がもはや通用しないとの認識に立って、それぞれの企業が独自の経営戦略を見出さなければならない局面に立たされている。
     従って、中小建設企業の今後の経営戦略を考える上でまずやらなければならないことは、これまでの経営発想や手法にとらわれない、新しい視点と挑戦意欲に立脚した経営者の意識改革である。
     従来型の経営の延長線では、新しい経営戦略の選択肢が非常に限定されてしまうことを認識する必要がある。


  2. 「総合」の中身と価値の明示必要
     総合建設業あるいは総合工事業としての存在価値とその商品の明確化が問われており、それを明らかにしない限り、時代にマッチした経営戦略を立てることはできない。
     総合建設業の「総合」の解釈が曖昧であり、いくつかの解釈が混在し、そのことが総合建設業に対する正しい社会的な認知や位置づけを、不透明なものにしてきた。
     これまでの「総合」の解釈をいくつかあげてみる。
    ● 建築工事も土木工事もできるという対応工事の間口の広さゆえの「総合」。
    ● 企画・設計から施工・メンテナンスまで一貫した建設生産ができる「総合」。
    ● 資金調達、テナント保証など建設生産以外の施主のあらゆるニーズに応えられるという「総合」。
    ● 一括総価請負によって、着工から竣工までの総合リスクをすべて負担するという「総合」。
    ● 工程・工期管理、品質・コスト管理、安全管理、各専門工事業者間の調整管理、近隣対策など、総合生産管理としての「総合」。
     これらさまざまな「総合」の意味や機能をひとくくりにして、総合建設業としてとらえてきたために、能力や機能の有無を明確にしないまま大手、中堅、中小の建設企業を「総合建設業」と表現してきた。
     しかし、総合建設業にとって最も大切なことは、能力、機能、業態の「総合性」を誇示することではなく、総合建設工事業者の「総合力」によって発注者やユーザーの利益の最大・最適化をいかに提供できるかを明らかにすることである。
     より経済的でより効率的な生産を行うために、総合建設業の「総合性」が不可欠であることを証明すると同時に、その「総合性」の中身と価値を開示することによって、総合建設業の存在価値と商品をアピールする必要があるのだが、その努力を怠ってきた。
     そのために、下請構造の上に成立する元請の印象を与え、中間搾取、ピンハネといった誤解を招いてきたことも否定できない。
     大手、中堅、中小の総合建設業のそれぞれの「総合力」の中身と、それによって提供する社会貢献度を明確にしなければいけない。


  3. 新しい契約生産システムへの対応
     バブル経済時の建設価格の高騰と、バブル崩壊後の建設価格の急落は、クライアントやユーザーの建設業に対する不信感を募らせる結果となった。
     それは価格と品質の不透明な関係に対する疑問や不信感であり、コスト管理と品質管理の明確さを望むものであり、民間の発注者の間に従来型の元請への一括発注を見直す動きが出始めている。
     これまでJR、電力会社などが行ってきた分離発注、コストオン方式などの発注形態に加え、大手デベロッパーがCM方式や異業種JVなどの新たな手法を採用している。
     専門工事業者の職種や企業規模によってまだ格差はあるものの、専門工事業はおしなべて自主管理能力、責任施工能力を向上させており、分離発注やコストオン方式の生産形態を採用しやすい条件が整いつつある。
     また、総合建設企業の現場スタッフの若返りが、現場の経験豊富な人材の減少を招き、総合建設企業の現場における総合生産管理力が低下しつつある。
     それは現場に精通したスタッフが少なくなったと同時に、施工技術、施工管理技術が、総合建設業から専門工事業に移行したことによるものだが、そうした生産構造変化がありながら、総合建設業の下請契約や下請管理が従来どおりのやり方から一歩も出ていなかったことにより、生産形態と生産管理にズレが生じてきているともいえる。
     一方、大手デベロッパーなどの大規模な民間発注者が、自前の管理スタッフの拡充を図りつつあることも、CM方式やコストオン方式、異業種JVなどの新しい契約生産システムを導入する要因となっている。
     民間工事において、そうした新しい契約生産システムが成果を上げるようであれば、官公庁工事への採用も促進する機運をつくり出すことになる。
     そうした流れの中で、総合建設業が自らの存在価値をどう高めていくかを、急いで見極める必要がある。
     また、総合建設企業と専門工事業者で構成する異業種JVは、それぞれの責任・リスク分担が明確になり、総合建設企業のリスク分担が従来の一括請負により軽減されることを考えれば、中小の総合建設企業が大規模な工事に参入できる道も開かれる可能性もある。
     いずれにしろ、新しい契約生産システムは、民間建設工事市場における大手総合建設企業のものと考えるのは危険であり、公共工事市場そして中小総合建設企業にも波及してくるととらえ、そこにビジネスチャンスを見出す意欲と注意力が肝要である。



    異業種JV
     総合工事業者と専門工事業者がJVを編成し、そのJVが工事の発注者と請負契約を結ぶもの。
     総合工事業者は、発注者との連絡折衝、現場事務所の管理運営、専門工事業者間の調整、近隣対策など工事の全体計画や管理を担当する。
     一方の専門工事業者は、それぞれの工事の積算数量計算、施工計画、施工管理を担当する。
     従来型の総合工事業者が一括総価請負するやり方は、総合工事業者が全リスクを負担する形になるのに対し、異業種JVは、総合工事業者と専門工事業者がそれぞれ応分のリスクを負担し合う形となる。
     発注者との契約内容が透明であることが前提となり、工期の遅れや品質保証などの責任なども、それぞれが負うことになり、総合工事業者の責任とリスクが軽減されるため、中小建設企業にとっても、中規模工事への参入機会を増やすことが可能となる。


  4. 地元企業優先と地元利益優先の両立
     中堅・中小建設企業の最大の特徴が、地域密着型の地元企業であることは、これまでにも指摘した。
     それは今後も堅持すべき特徴であるが、それは地元の工事を地元の建設企業が受注、施工することによって、地域社会や住民にどれだけ利益やサービスを還元できるかを明らかにすることで、地元住民に支持されるものである。
     地元企業を優先することが、地元住民の利益拡大につながることを証明することによって、地域密着型企業の存在価値が認知される。
     「地元企業優先」が「地元住民利益優先」と矛盾せずに両立することを、論理的にも実際的にも明らかにしなければならない。
     「地元企業」であることが価値ではなく、地元企業の特性を活かして地元社会にどれだけ貢献できるかが価値となる。
     そのためには、地域行政の地元中小企業対策や地域モンロー主義に依存するのではなく、自らの努力で地元企業としての価値と信頼を高める経営戦略を、それぞれの建設企業が考えるべきである。
     その場合の経営理念の基本は、やはり「競争原理」と「情報開示」に置くべきである。
     「競争原理」とは、価格競争のことではなく、行政や住民や市場のニーズにいかにマッチした企業経営を行うか、いかに地域社会にとってのメリットを増大させ得るかの競争であり、その企業努力が正当に評価されて、その評価が企業の成長発展につながる仕組みの市場メカニズム、市場原理のことである。
     また、「情報開示」とは、その市場メカニズムが適正に機能しているかどうかをオープンにすることであり、各企業のその企業努力の実態が地元住民にも見えるようにし、その評価が信頼と直結する透明性をつくり出すことである。
     この競争原理と情報開示に対応できない地元企業が仮に発生したとしても、それを市場原理による淘汰としてとらえる勇気と冷静さがなければ、不良不適格業者の排除はできない。
     他産業と比較したときの建設企業の「特殊性」を地元住民に訴える時代は終わっており、その特殊性をいかに克服して、地域社会と融合した地元企業の真価を提供できるかの競争時代に入ったことを自覚しなければならない。

II.経営戦略の選択肢について

 建設企業の経営目的の基本は、「受注の確保」であり、「利益の確保」であることはいうまでもない。
 しかし、この基本目的は企業経営にとって当然のことであり、それ自体は経営戦略にはなり得ない。
 受注と利益の確保・拡大を図るためにどうするかが経営戦略であり、それは個々の企業によって異なるものであると同時に、個々の企業が独自で見出し、それに挑戦していかなければならないものである。
 これまでの建設企業の経営は、ある一定量の受注量を確保することに主眼を置いてきたことは否定できない。
 しかし、建設市場の縮小傾向の中で、果たして従来型の経営が通用するかどうかを、根本から見つめ直してみる必要がある。
 激しい価格競争が、受注量と利益の関係を大きく揺るがし始めており、これまでの経営方針や企業組織では生き残れない時代に入っているのかもしれない。
 そこで、今後の中堅・中小建設企業の経営戦略として想定される選択肢を、いくつかあげてみる。
 ここにあげた選択肢は、あくまでも今後の検討のヒントにしてもらうためのものであり、このほかにも最良の選択肢は数多くひそんでいると思われる。
 いずれにしても、地域密着型、生活密着型の中堅・中小建設企業の特徴を活かし、どう活路を開いていくかは、個々の経営選択によるもので、少なくとも横並びの経営戦略では同一の市場の中での競合、競争に大方のエネルギーを投下し続けなければならないという認識は持って欲しい。

  1. 選択肢その1:企業合併などによる企業力の強化
     企業合併の基本は、その合併によって企業の力である受注獲得能力と利益獲得能力を増強することにある。
     従って、同一の市場で受注を競合し合ってきた企業同士の合併は、受注増、シェア拡大につながる要素は少ない。
     また、企業の体質や組織から無駄や非効率性を排除し、すでに高収益構造を確立している企業同士の合併でなければ、利益増は見込めない。合併後に企業構造のスリム化、合理化を図るという発想は間違いである。
     そこで合併を検討する場合には、互いに経営内容をディスクローズし、合併の前に処理対応すべきことを解決しておく必要がある。
     また、経営の主導権争いや企業カラーの違いによるあつれきが生じる要素を完全に払拭しておかなければならない。
     経営が悪化した企業の救済を目的とした合併は、中堅・中小建設企業には荷が重く避けるべきである。
     そうした前提に立って、いくつかの合併を想定してみる。


    ○得意分野の異なる企業の合併
     土木、建築など工事の種類や、公共工事と民間工事など発注者の異なる分野で、それぞれの実績や得意性を有する企業同士の合併である。
     土木工事でも、道路、上下水道、造成など、建築工事でもビル、住宅、工場などの種類があり、それぞれの得意分野を持つ企業同士の合併も考えられる。
     いずれにしても、相互補完を目的とした合併である。
     
    ○営業領域の異なる企業の合併
     同一の営業地域を持つ企業の合併は、その企業同士の競合関係が解消されるだけで、あまりメリットがない。また、公共工事市場では指名回数が減少するデメリットもある。
     そこで、例えば杉並区と江東区、北区と大田区など本社所在地や営業地区の異なる企業が合併しシェア拡大を図る。
     公共工事の指名回数は、営業所、支店の形態を残し確保維持する。


    ○経営管理部門の合併
     持ち株会社の方式をとり、それぞれの社名や施工管理部門をそのまま残し、その上部機構に経営管理部門を一本化した会社を設置し、販管費を削減して、経営の効率化を図る。
     この場合、合併後もそれぞれの企業が独立法人として残るため、公共工事の受注機会を確保維持することができる。


    ○ 施工管理部門の共有化
     専任技術者、監理技術者、基幹技能者、現場経験者などを、別会社組織に所属させ、そこから各現場に派遣配置する形をとり、技術者配置の効率化とコストダウンを図る。
     別会社組織は互いに出資して設立する。
     しかし、現行法では、専任技術者や監理技術者は元請企業に所属していることが義務づけられており、別会社からの派遣は認められていないことに留意する必要がある。
     ただ、今後は建設業に限らず人材、技術者の流動化は避けられない流れにあり、また、グローバル化の中で技術者の独立性や倫理を堅持する意味からも、組織に所属しないプロフェッショナル・エンジニアの位置づけを確立する方向
    にあることも事実である。
     そうした流れは、中堅・中小建設企業が必要な人材や優秀な技術者を確保し、効率的な経営を行っていく上でのプラス要素ととらえることも可能であり、対応研究をしてみる価値がある。
     また、そのような情勢を勘案して、行政機関に対して、現行法の再検討など柔軟な対応をお願いすることも必要である。


    ○ 地域単位の協同組合化
     中小企業基本法、協同組合法等に基づいた適格組合を設立し、共同受注、共同施工を行う。協同組合の品質保証や資金保証により信用力を高める。


    ○中小設計事務所の買収
     小規模の設計事務所を買収し、設計部門を強化し、民間の中小規模の建築工事を設計施工一貫方式で受注できる体制を固める。


  2. 選択肢その2:分社化、連携など特化された企業形態
     次なる選択肢は目的を明確に果たし得る事業単位に企業を
    分社化し、さらにそうした効率的で競争力のある企業を
    ネットワークすることで生まれる新たな企業形態である。


    ○異なる市場の分社化
     公共工事部門と民間工事部門を分社化、その上部に経営管理部門の新会社を設立する。
     公共工事と民間工事では営業のやり方や交渉、アフターケアなど異なっており、同一組織内でも相いれない要素がある。それを分社化し、社員の行動、教育、指示を一本化して効率化を図る。
     公共工事と民間工事では、その収益体質や経理手法が異なっていることの経営の不透明さに、社会の批判が出始めており、その意味でもこの分社化のメリットをカウントできる。


    ○大手ゼネコンの施工請負に特化
     発注者への直接営業、直接受注をやめ、大手ゼネコンの工事の施工請負に専念し、販管費の大幅削減を図り、また社員の養成・配置もそれに見合った形に特化することで経営の合理化を図る。
     
    ○製造業、デベロッパーなど異業種企業の傘下に入り施工部門を
    担当する

     建設産業以外の企業が国内の建設市場、特に公共事業分野におけるビジネスチャンスをうかがっており、企画立案、事業運営などに進出してくることが考えられる。
     そうした異業種企業のグループ下に入り、建設工事の施工管理、生産管理を担当する。


    ○得意な工事の一貫生産体制
     ある分野、種類の工事について、専門工事業者、協力業者への下請発注を行わず、すべて自前で生産する。
     必要な技能労働者を直接雇用し、建設物の完成後の維持補修まで行うことによって、クライアントの信用、信頼を高める。
     施工技術の多くが専門工事業者に移行し、総合工事業者の存在や商品の明確化が問われており、従来型のアウトソーシング方式とは全く逆の一貫生産方式をとることで、総合管理から総合施工の業態と性格を鮮明にして、モノづくり企業としての地歩を築く。


    ○専門工事業者とのパートナリング
     専門工事業の施工技術、施工管理能力が向上していることから、施主が専門工事の分離発注やコストオン方式などによる新しい契約システムを採用し始めている。
     そこで専門工事業との共同企業体編成やパートナリングを強化して、価格の透明性、品質保証を施主にアピールし、市場の確保拡大を図っていく。
     総合工事業のリスク負担が軽減されるため、中小建設企業でも大型工事への参入機会を見出せる可能性も秘めている。


    ○設計事務所、コンサルタントとの連携
     地元の設計事務所やコンサルタントとの連携を強化し、あるいはチームを編成するなどによって、地元のプロジェクトの川上領域(企画、設計、見積など)から参画して、地域密着型ゼネコンとしての信頼性を高める。


    ○PM、CM、PFI企業との連携
     CM、PMを行う企業や、PFI事業者との連携、情報交換を深め、全体プロジェクト工事施工の内、一部分を担当するノウハウを身につけ市場を開拓する。


    ○資本と経営の分離
     企業オーナーは資本提供者の立場となり、企業経営を他の人に任せるやり方で、オーナーは利益配当をうける。経営の後継者がいない場合などの選択肢のひとつとなる。


    ○中高齢現場経験者による会社組織化
     ゼネコン社員の現場管理能力の低下や空洞化が表面化しており、早晩このことが問題となり、ゼネコンの存在価値が問われる懸念がある。
     そこで、大手ゼネコンを退職もしくは人員整理の対象となった現場経験者を別会社組織で雇用、プール化しそこから必要に応じて現場に派遣、配置する。


  3. 選択肢その3:ユーザーのための地域密着型事業形態
     中小企業が、地域密着、地域社会融合を特徴として掲げる以上は、地域の生活者やユーザーとの距離をより密着させ、信頼性を向上させるための具体的な活動や試みをそれぞれの企業が積極的に実施していく必要がある。
     例えば、次のようなことも考えられる。


    〇品質保証制度の商品化
     建設業の価格、コストの明確化が要求されているが、その背景にあるのは、価格と品質の関係の透明化に対する要求と見ることができる。
     そこで、価格と品質の関係がわかりやすく理解できる資料や情報を提供すると同時に、品質保証制度を確立し、顧客の安心感と信頼を得る。
     品質保証制度には、建物の種類が部位などによって詳細な保証内容が必要となり、瑕疵保証などに見られるように、設計者、施工者、所有者などの責任範囲を明確にすることが大事となる。
     また、その責任範囲の明確化が曖昧なままでの保証制度は、企業経営の根幹を揺るがす事態につながるリスクも含んでおり、損保会社との連携によって、品質保証の具体的なメニューを提示することもひとつの手法である。
     さらに、一企業による単独保証が損保会社の支援を得にくい場合は、数社による組織的保証も考えられる。
     住宅品質確保促進法の住宅性能表示制度などに関連した動きは今後ますます強まるはずで、そうした法制度を最大限に活用した、特色のある品質保証制度を、各企業が研究することが大切である。


    ○リフォームの相談窓口の開設
     ビルや住宅のリフォームの潜在需要は大きく、そのニーズに親切、的確に応えることによって、地域密着型企業としての地歩を築く。
     ビルや住宅の内外装、屋根などの各部位の劣化状態を診断しリフォーム計画を立案するサービスを行う。また、リフォーム業者の紹介や資金計画も立案提供する。
     そうした需要に応えるための相談室あるいはホームページを開設し、地域住民が気軽に相談できる体制を整える。
     建物の劣化診断士やリフォーム計画立案者などの専門家を社員として養成することが難しい場合は、関連する専門家や知識者と連携し、ネットワークによる受入体制を構築する。
     リフォーム工事の終了後のアフターケアや所有者の反応や感想を聴取し、次のリフォーム相談の参考資料にすると同時に、きめ細かなケア体制の評価が口コミで他の顧客の開拓につながるようにする。


    ○環境重視を企業ブランドにする
     工事中の安全、騒音、振動対策はもとより、解体や工事に伴って発生する建設廃棄物の処理、再資源化、さらに建物に使用する資機材についても環境対策に最大限の配慮をしていることを開示し、それをPRする。
     また、完成した建設物が、10年、20年の使用期間中に、省資源、省エネルギーなどの面においていかに成果をあげられるように考慮されているかを明らかにし、ランニングコストやライフサイクルコストの経済効果についても情報を開示する。
     建設業は自然や環境を破壊する側としてのイメージがある中で、環境重視企業のイメージを地域に定着させ、それを信頼感と親近感のブランドにする。


    ○地元設計事務所、地域団体との交流
     地域団体(NPO、市民グループ、消費者団体、商店会、青年会議所など)や地元の設計事務所との交流会、意見交換会の集まりを設置し、定期的な情報交換会を開催する。
     その情報交換会のテーマは、広い意味での「快適な地域づくり」とし、そのテーマにおいて建設企業として提供できる情報や知識を出していく。
     それが地域の中の小規模なPFI事業の立案や計画につながることも考えられるが、情報交換会の目的は、地域の人たちが皆で知恵や知識を出し合って快適な地域社会をつくることにあり、建設企業も地元の一員としてそのメンバーに参加する姿勢が肝要で、建設工事の受注や創出を第一義の目的にして参加すると、理解を得られにくい要素があることも留意しておくべきである。


    ○情報通信技術(IT)への対応
     これまで中堅・中小建設企業のIT(Information Technology)への対応は、社内業務の効率迅速化を目的としたOA化が中心であった。
     しかし、最近のITの普及と革新はめざましく、それに的確に対処できる体制を確立していかなければ、受注の確保も難しくなる情勢になる。
     例えば、建設省は2001年4月から、「電子入札」を一部に導入し、2004年4月からは全工事に導入する方針である。
     さらに2010年4月から全公共工事が「電子入札」となることが予想されている。
     また、一部の大手ゼネコンには、資機材の調達や下請協力業者の公募や入札をインターネットで行うケースが出始めている。
     これにより、資機材購買や下請業者の選定の仕組みが変化し、企業間取引慣行が一新することも考えられる。
     ITをうまく活用した企業ほど、効率的な調達が可能となり競争力も強化される時代に向かいつつあり、中堅・中小建設企業もIT対応を急いで進める必要がある。
     さらに、インターネットを用いて、地域住民や団体との情報交流、情報発信も、地元密着型企業として大切なことであろう。

ケーススタディ

  1. 「大田区のNPO活動による建設事業の創造活動」
     密集市街地の再開発は地権者の権利関係の複雑さ等の多くの問題を抱え、一向に進展しない状況であり、東京の防災上のアキレス腱を解消できず都市の再生を停滞させている。
     こうした状況の中で、NPOの力を活用した新しい手法によって密集市街地の再開発が東京都大田区において進展している。
     このNPO、「密集住宅地区整備促進協議会」は、地元の建設業、増田工務店が中心となって1997年に設立された(NPO法人認証は1999年)。この協議会の専務理事である増田工務店の田村社長は「民間企業では行政に対しての働
    きかけや受けられる支援にも限界がある。しかし、NPOという団体の活動となると行政の対応は異なり、支援も受けられやすい。NPOは地域の合意を形成し、地域の総力を結集するのに極めて有効な組織形態である」とNPO組織の有効性を訴えている。
     現在、このNPO組織にはデベロッパー、設計事務所、大手から中小のゼネコン、公認会計士などの再開発に関連した55団体が参加している。活動範囲は密集市街地整備促進地域を対象としており、大田区にとどまらず新宿区などにも拡がっている。計画策定やコンサルティング業務は無償であり、設計施工に結
    びつくことでビジネスとなっている。
     事業推進の前段階が無償の活動であり、事業の収益性だけを追求すると成立しない活動ではあるが、NPOという団体が持つ発言力、事業の推進力は官庁でも民間企業でも持ち得ない独自のものであり、NPOは閉塞した再開発事業の推進役として相応しい存在である。大田区蒲田の再開発においてもNPOとして政治家への訴えかけや都市公団や公庫などへ様々な提案を行い、事業の推進に貢献してきている。
     地元に活動の基盤を置く中小建設業にとって、こうしたNPOという団体の活動をリードしていくことは新しい事業機会の創出という意義を持っており、中小建設業の地域密着の一つの姿として、示唆を受ける事例である。
     日本において、いまだNPO活動は無報酬のボランティア活動であるという認識が強いが、欧米では社会を担う新しい機関として認知されており、相応の収益も認められている。こうした社会認識はいずれ日本においても定着するものと予想される。


  2. 「多角化を突破口とする生き残り策(ホームセンターの併設)」
     建設業以外のビジネスを併設することによって、人員を吸収するだけではなく、これまで建設業で培った経験を活かすことができる。なかでも建設業とのシナジー効果のあるものとして、「ホームセンター」を併設するという多角化路線を考えてみる。
     個々のホームセンターの規模や性格に関しては、それぞれの地域の特性や、母体である建設企業の特徴に応じて工夫が必要である。ホームセンター併設にかかわる共通の狙いは、以下のように要約できる。


    ○ 従来の建設業は、地域からの接触を待つ姿勢にある。これに対して、自ら地域の中に入り込んでいき、地域にホームセンターという店を構えることによって、地域の一員、すなわち「つかう側」に位置することになる。

    ○ ホームセンターへの顧客は、内外装の改造や改修、場合によっては増築といった建設の需要を抱えた人たちである。ここに建設の設計や施工の専門家を準備した「相談窓口」を設ければ、有効なアドバイスを与えることができる。この「相談窓口」を整備してより良いサービスをすることは、一般のホームセンターではできないことであり、さらには大手のゼネコンではできないことである。以下に相談窓口におけるサービスのいくつかを考えてみる。
    ・建材や部品を販売するだけではなく、職人の斡旋をすることによって、顧客の需要に対してより良いサービスができる。アメリカのDIY(日曜大工などのこと)とは違い、日本の亭主や奥方は、自分では工事をしないという傾向にあるという。
    ・顧客が設計や見積り、さらには現場管理を必要とする場合には、これらを有料でサービスすることができる。これはまさにCM(コンストラクション・マネジメント)業といえる。そのポイントは、すべての仕組みの透明性を貫くことであり、これが新しい形の建設業として信頼を高めることになる。

    ○ こういった相談を通じて顧客との距離が縮まると、次第にまとまった工事の相談を持ち込まれるようになる。仕事の規模が大きく、一式請負の方が互いにメリットのある場合には、母体である建設業の出番となる。ここでも透明性のある運営
    をすることによって地元の信頼を高めるようにする。具体的にはVE、DB、CM、PMなどの手法を駆使することである。CMに関しても、ピュアーCMだけでなく、CMアットリックスを提案することも有効である。このように一式請負だけではなく、いろいろな契約方式があることを示して顧客の自由度を高めることである(ピュアーCMとはコンサルタントに近い立場である。一方CMアットリックスとは、一式請負に類似してはいるが、下請契約を全部顧客にオープンにするところに違いがある。そこまでオープンにすることによって、顧客に建設費の使い方に関して納得を与えることができる)。


    ○ ホームセンターは地元の商店の一員である。商店組合にも参加できるし、場合によっては商工会議所などの団体の一員となる。こうした機関が地元のインフラ整備の検討の主体となることは、今や自治体側も必要としている。こういった機関に、建設の専門家を持つホームセンターが参加することは、有効な貢献となる。行政との接触も、地元商店の立場の方が受け入れられやすい。従来型の建設企業のままでは制約が大きい。

    ○ さらに地元の建設に関する知識レベルを高めるために、ホームセンターでは定期的にセミナーを開催する。日曜大工の手法などの技術的なテーマと平行して、公共工事のあり方などのテーマを設定する。これは前項に述べた地元機関の組織化につながる。

    ○ 建設業者には、技術者以外にも購買や営業の人員が存在し、また、作業場や倉庫といった施設の手持ちもある。これらをホームセンターの経営資源として再編成することにより、リストラを最小限にし、さらには建設業とのシナジー効果のある
    ビジネスに転換を図る。

     以上の案は、地域それぞれの特性に応じた店構えが必要であり、発展策としてはチェーン化も考えられる。もはや事態は業界の共存共栄を図れるほど甘くはなく、生き残りのためには、他人の市場に割り込み争奪するといった攻撃性も必要となる。
     ただし、この案は民間の建築を主体とする建設業には転換は可能であっても、公共工事主体の土木会社には縁の薄いものであろう。一般に建設企業の合併や提携は意味が薄いとされている。しかし、今後有望なのはリフォーム市場とされているので、これから参入するには、建築の能力を併設するか、あるいは建築専門の企業との結びつきを図ることを考慮に入れる必要がある。

INDEX

はじめに

第1章 首都としての地域特性と建設投資展望

第2章 首都圏の建設産業構造変化と展望

第3章 中堅・中小建設企業の経営戦略のための指針

第4章 建設産業行政に対する要望

おわりに(地域とともに)


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