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望ましい将来像を形成する

 これまでの急成長社会では、次々に発生する課題に対する対症療法的な施策がまず必要であったために、将来を見据えた指摘やその対策措置は、政策として先送りにされがちでした。しかし、今後、わが国が安定成長の時代に入っていくためには、少ない社会活力をどう投入していくかは重要な課題であり、社会活力があるうちに、新しい時代への準備を進める必要があります。
 特に、人口構成や住宅ストックの質など、ある時点での政策が時間をかけて効いてくる領域では、当面の施策が、実は、次代の社会環境を決定する大きな要因になっていることを認識する必要があります。少子化や高齢化など現実に発生し将来さらに進行すると認識される領域においては、その原因要素である人口問題や住宅問題などを正しく認識のうえ、長期への影響を見据えた緩やかな舵切りをおこない、将来の社会像を望ましいものとしていく責務があります。
 これらの視点から、次の項目が課題となってきます。

 

高齢化社会に対応した都市機能を

 高齢化社会において都市が都市らしく機能していくためには、「都市インフラ」と「経済インフラ」がバランス良く整備され、高齢者が安心して生活できる都市となることが必要です。
 これまで高齢化社会へのハード対応というと、住宅内部のバリアフリーなど、施設レベルでの対策が主流でした。これは、対策の効果を享受する生活者が特定しやすいため、受益者負担による投資が行われやすかったという事情がありますが、今後、高齢者の位置づけが社会的に大きくなるにつれ、都市・社会レベルでの対策が必要になります。
 特に都市部では、高齢期に入ってもなお社会生産の一翼を担う高齢者の存在や、リタイア後に都心の利便性を享受する都心回帰層の存在を意識して、活力ある都市の移動手段や公共空間等において、ストック・フローの両面からバリアフリー環境を実現していくことが必要です。これらは、「都市インフラ」としての整備になります。
 一方、高齢期における身体虚弱者などの介護機能を効率的かつ合理的に実現させることが必要ですが、ソフト面においてこれを社会的に支えるシステム整備や、適正な事業成立を図るため、介護保険などの整備が必要になります。これらが「経済インフラ」の整備です。

 

空間倍増計画は新築・建替え両面で

 戦後日本の高度成長期に代表されるこれまでの成長社会では、人口構造や世帯構成に対応した住宅の供給は、ほとんどが新築フローにおいて提供されたため、市場の自律機能により、需要の対象となる社会像への対応が自然におこなえたといえます。
 しかし、現在、安定社会への移行期に差し掛かっている現実を考えると、将来の社会像が顕在化した頃には、フローによる供給は相対的に減少して、使い回されるストックと社会像との間にギャップを生じ、結果として、適正でない組合せが発生する可能性があることに気づかなければいけません。
 これらの事情から、例えば住宅供給であれば、現在の市場構造に対応しつつ、現在主流の小型住戸に加え、より大型の住戸を供給していくことが必要になります。また、これに平行して、既存の小型住戸を若年齢世帯に適切に継承させていく政策的誘導も必要となりましょう。
 特に都市部では、これまでの供給実績により、小規模住戸のストックが蓄積されています。今後、施策としての空間倍増計画などを進めるには、住宅供給フローを大型住戸に振り向ける必要がありますが、現実的な市場の担い手は若年世帯であり、小型住戸への傾斜は、放置していては止まらないことになります。
 今後は、大型住戸への優遇施策等により、フローの大型化を進める一方、既存住戸における「新築同様リフォーム」等により、ストック活用も含めた若年世帯への供給を両立させる市場構造(新築・中古)が必要となります。また、老朽化したマンションについては建替えを推進し、そのような機会を捉えて積極的に、小型住戸を大規模住戸に置き換えていく必要があります。このような事業は、大規模なリフォームは住まい手の入れ替わりに対応しますし、建替えで大規模住戸にリプレースするためには戸数減を生じたりしますので、既存ストックに対する居住者の入れ替えを必要とします。このような事業についても、前出の地域内定住の概念など、住戸を固定しない継続居住の意識を普及させる必要があるのです。

 

今から50年後の社会構造への対策を

 わが国の人口は、21世紀前半の高齢化社会をピークとして、その後は大幅に減少することが予測され、経済基盤の落ち込みや人口構成のひずみによる国力の低下が懸念されています。このような人口動態の基礎要因は、人口再生産年齢における出生率の低下動態ですが、特に現在時点でも、都市部に再生産人口が集中しているうえに、都市部での出生が相対的に少ないことに注意する必要があります。
 出生率の低下は、様々な社会要因が集積した結果であり、特定の要素だけを原因と指摘することは困難ですが、考え得る要素には、現段階で対策を講じておく必要があるでしょう。例えば、都市部の居住水準の低さや、高齢化社会では必須になると考えられる女性の就業環境は、その潜在的な要因として注目すべきです。子育てに十分な広さの住宅を容易に入手できたり、時間的に自由度が高く、低廉な費用で利用できる保育施設が用意されるなど、生活面での支援があれば、出生率の低下に歯止めをかけられる可能性があります。
 これらに対する改善施策は、その趣旨が50年後の社会構造への対策であるだけに、重要性の割に軽視されがちな面があります。また、現実の市場では評価されにくい面があるだけに、自律的な進行には期待しにくいといえます。

 

住・労働環境整備は現代社会の責務

 これらの事情を考慮すると、当面、ハード分野においては、住戸規模の拡大や価格安定により「安心して子育てできる住環境」を実現して、再生産年齢である若年世帯に供給していく施策を、あえて積極的に行っていくことが必要です。また生活利便施設としての保育所など、福祉行政の充実も課題となります。
 将来社会を見越して必要な対策が明確になっていても、それを現段階において実現していくためには、住宅市場という既存システムへの整合が必要になります。そういった「子育て対応の住環境」を経済負担能力の範囲内で無理なく、しかも将来のために選択していけるよう、市民意識を啓蒙するかたわら、社会システムとしても整えていく必要があるのです。
 そのためには、安心して子育てのできる住環境やファミリー用の住宅が、若年世帯にも手の届く負担で供給されるような住宅政策を実現する必要があります。また、長時間保育のできる保育所を併設した集合住宅や住宅地など、従来の福祉の視点だけではない保育政策も必要です。
 特にこれからの高齢化社会においては、若年世帯の共働きは必須になると考えられます。そのような事情に対応した住環境や労働環境の整備は、将来社会の与条件である現代社会の責務となるのです。


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