東建月報2009年1月号掲載
▲東京都庁もオリンピック・パラリンピック招致色に

東京都が招致に取り組む、2016年オリンピック・パラリンピックの開催都市が今年10月2日、デンマークのコペンハーゲンで決定する。東京以外の立候補都市はシカゴ、マドリード、リオデジャネイロ。世界の名だたる都市を相手に東京は、「日本だから、できる。あたらしいオリンピック・パラリンピック!」の開催を打ち出し、来るその日に臨む。


評価トップの東京


▲昨年6月にIOCから発表された第一次選考の結果。東京は総合トップに(クリックすると拡大表示します)。

昨年6月4日、2016年オリンピック・パラリンピック競技大会の開催に名乗りを挙げる7都市の中から、立候補都市を絞り込む“第一次選考”がギリシャのアテネで行われた。通過したのは東京、マドリード(スペイン)、シカゴ(アメリカ)、リオデジャネイロ(ブラジル)の4都市。東京は安全性、環境面、宿泊施設などが高く評価されての1位通過だった。
開催都市は今年10月2日、デンマークのコペンハーゲンで開かれるIOC(国際オリンピック委員会)総会において、約110人のIOC委員の投票により決定する。投票は一つの都市が過半数を獲得するまで続けられ、過半数に達する都市がない場合、投票ごとに得票数が最下位の都市から除外されていく仕組みだ。
この最終決戦をにらみ、国内外で招致活動を繰り広げる「特定非営利活動法人東京オリンピック・パラリンピック招致委員会」は、「東京の勝機は十分にある」と強い手ごたえを感じている。


東京という都市の底力

勝算の一端には東京という都市の底力がある。
世界の大都市の一つである東京は、まず治安の良さと経済の安定性で群を抜いている。加えて、競技会場が都心の半径8km圏内に集中するコンパクトな計画、それに伴う環境面での配慮、さらには銀座や六本木、秋葉原といった外国人観光客に人気の繁華街が都心部に集中していること、世界に誇る食文化などが、東京で開催するオリンピック・パラリンピックへの期待感につながっているのだ。
こうした“追い風”に乗るには、国内世論の盛り上げが必須である。
だが、「他に優先すべき社会問題がある」「税金の使い道として不適切」「大会運営に膨大な経費がかかる」「大会期間中の交通渋滞」などの理由から、逆風が吹いているのも事実である。


経済効果は約3兆円


▲1964年東京オリンピック時に建てられた国立代々木競技場

東京でオリンピック・パラリンピックが開催された場合の収支の試算がある。それによると、投入される公的資金(税金)は約2,360億円。これに対し経済波及効果は2兆8,342億円(平成18年6月発行『第31回オリンピック競技大会開催概要計画書』より)と、約10倍以上のリターンが見込まれている。これには道路等のインフラ整備が含まれていないため、実際にはより多くの効果が期待できるだろう。
公的資金の2,360億円はすべて競技施設の新設、改築、バリアフリー化などに充当され、大会後もオリンピックレガシー(遺産)となって残る。一方、大会運営費の2,943億円は全額民間資金でまかなわれる。
インフラ整備については、東京都が2006年12月に策定した「10年後の東京」計画の中ですでに進められており、3環状道路と呼ばれる首都高速中央環状線(中央環状線)、東京外郭環状道路(外環)、首都圏中央道路自動車道(圏央道)の整備が、2016年までには約9割完了するため、都心部の渋滞が劇的に解消される見通しだ。
さらに空のアクセスに関しても、羽田空港の滑走路が延伸して国際化が進み、成田空港は2010年の新高速鉄道開業によって、日暮里−成田空港間が現在の51分から36分に短縮。都心をめぐるネットワーク機能が格段に向上する。
これらのプロジェクトがオリンピック・パラリンピックの到来を機に加速度的に進むことは想像に難くない。


機能性と効率性重視の建築へ


▲晴海ふ頭にあるオリンピックスタジアム予定地

2016年東京オリンピック・パラリンピックの開催計画は、その特徴の一つに既存の競技施設をリユースするという考え方がある。1964年の東京オリンピックで使用した施設をできる限り補強し活用するのだ。
そのため新設会場は全31施設のうち5施設のみ。その中にはメイン会場のオリンピックスタジアムが含まれている。
中央区晴海に建設予定のオリンピックスタジアムは10万人を収容できる日本最大級の規模となる見通しで、大会時には開会式および閉会式、陸上競技とサッカーの会場となる。
オリンピックスタジアムといえば、昨年の北京オリンピック・パラリンピックで通称「鳥の巣」と呼ばれる斬新なデザインの建築が話題になったが、東京は見た目のインパクトよりも、あくまで機能性と効率性を重視したい考えだ。日本の誇る環境テクノロジーを駆使し、環境負荷の少ないサステナブル(持続可能)な建築を目指す。
またデザイン的にも、東京オリンピック・パラリンピックのグランドデザインを手がける建築家の安藤忠雄氏が、環境と共生するスタジアム像を提唱。実際のデザインは世界コンペティションで募り、若い才能にも門戸を開こうとしている。


目指すのは「結ぶ」オリンピック


▲2016年東京オリンピック・パラリンピックの競技会場計画(クリックすると拡大表示します)

2016年のオリンピック・パラリンピックは、開催都市の都市力を多角的に試される大会になるだろう。
1964年に開催された東京オリンピックはアジア地域初、戦後最大の国家的イベントという位置づけのもとで行われ、首都東京の街並みを一変させた。首都高速道路が走り、新幹線が開通。都内のあちこちに代々木の国立屋内総合競技場や東京体育館、国立競技場、日本武道館といった数々の競技場が造営された。
これらの建築物は約45年を経た今日も街のランドマークとして、また“現役”の競技施設として利用されており、オリンピックレガシー(遺産)を受け継いでいるという点で東京は国際的に称賛されている。
そんな東京が2016年に目指すのは、ただ建物や道路を「つくる」だけではない「結ぶ」オリンピック・パラリンピックだ。
オリンピック・パラリンピックの開催によって、人と自然、スポーツと社会、日本と世界を結ぶ都市づくりを実現する。それには環境変動や食糧危機、少子高齢化といった地球規模の問題と向き合い、大都市東京が世界に先がけて21世紀の都市モデルを提示していく必要がある。
これこそが大都市東京でオリンピック・パラリンピックを開催する意義であり、「日本だから、できる。あたらしいオリンピック・パラリンピック!」といえるだろう。
2016年東京オリンピック・パラリンピックの開催都市決定は10月2日。日本時間の3日未明に発表される予定だ。


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