【シリーズ】世界からつどう−未来への遺産(第9回)/東建月報2007年11月号掲載

東京の海に森ができる。このなかなかドラマチックなプロジェクトは、2016年のオリンピック開催地の候補都市として名乗りを上げる東京のシンボルプロジェクトで、「10年後の東京」の「風の道・緑の回廊」づくりの一環にあたるものだ。
「海の森」の発案・推進役になっているのは、石原東京都知事と建築家安藤忠雄氏。東京港埋立地の中央防波堤の内側埋立地に「海の森公園」をつくり、ゴミと残土の島を、森に生まれ変わらせ、都心に向かう風の道をつくるという計画である。
 この中央防波堤付近はオリンピックの乗馬競技、ボートカヌー競技などの会場としても計画されており、その招致に向けての都市整備という意味合いもある。


建築家・安藤忠雄氏が導いてきた、木を植えるプロジェクト


▲海の森募金キックオフイベント


▲緑の東京募金開始記念シンポジウムの様子

世界中の先進国を見渡しても、疲弊した森を再生する動きはあるが、このような人工の森を都市にまったく新しくつくるような計画は今まで見られなかった。このプロジェクトの発案者でもある建築家安藤忠雄氏は、今までもいくつかの緑化プロジェクトでの大きな成果をあげてきた。弁護士中坊公平氏とともに産業廃棄物の不法投棄で荒廃した瀬戸内の豊島・直島・淡路島などにオリーブを植樹する「瀬戸内オリーブ基金」、大阪を元気にしようと市民の募金で1000本の桜を植えようという「桜の会・平成の通り抜け」プロジェクト、東京近郊では、松下電器産業が所有する幕張の土地に500本の桜を植えた「さくら広場」などを立ち上げ、軌道に乗せてきた。
2006年に竣工した安藤氏設計の東京の表参道ヒルズも緑化に重点を置いたプロジェクトである。ケヤキ並木が美しい表参道、その緑豊かな参道とつながる明治神宮の森は全国からの献木によって今から約90年前に作られたものだ。当初この神宮の森を作るにあたっては、杉の木のみを植えるべきであるなど、さまざまな意見が錯綜していた。しかし、この地に本来植生していた武蔵野の原生林の樹木を植えることに落ち着き、日本全国から10万本の献木が植えられた。現在では人工のものとは思えないような都心の鬱蒼とした森となっている。その森に連続する表参道のケヤキ並木も、立派な幹と青々とした美しい葉を繁らせ、街並みの重要な要素になっている。
表参道ヒルズができる以前、この街のランドマークであった同潤会青山アパートが、現在もヒルズの中に保存されている。
安藤氏は、表参道ヒルズの建物を設計するにあたり、この同潤会アパートともマッチしていたケヤキ並木を尊重し、新しくつくる建物の高さも、この並木とあわせて地上6階とした。そして屋上にも木を植え、ケヤキ並木との一体感を強調。明治神宮、表参道との連続性を重視した街並みを創り出した。緑と連続したランドスケープを創り出すことが常に安藤建築において重要な位置づけであることが、この東京の表参道ヒルズの例でよくわかる。
安藤氏による建築作品も都内にかなり増えてきているが、「海の森」も含む東京都のプロジェクトは、今までの氏の仕事のなかでもかなり壮大なもの。この「海の森」の募金活動が10月下旬には本格的に始まり、本格的に計画は始動した。


東京港・中央防波堤で始まった植樹活動

それより以前、「海の森募金」のキックオフイベントが、今年7月、東京港中央防波堤内側埋立地の「海の森」がつくられる現地において行われた。石原都知事、安藤忠雄氏、宇宙飛行士の毛利衛氏、アルピニストの野口健氏のほか、江東区・大田区の小学生も参加した。当日は、子どもたちが中心となって、ドングリの実から育てた木の苗、約300本を植えた。今後都民から一口1000円の募金を募り、ボランティアにより植樹手入れを行い、森を作っていく。
行政によってではなく、都民自身の手によって木を植えて育て、森をつくっていくことが、このプロジェクトの重要な点だ。木を植えるのは、ゴミと建設残土の埋立地である。必ずしも樹木の育成に適した土壌ではないため、土づくりを行ったうえで植樹する。その土づくりのための堆肥も都内の公園や街路樹の剪定(せんてい)枝葉から製造したものを用いる。あくまでもメイド・イン・トウキョウの土と樹による森を目指す。植えられる木は、寄付金によって購入した苗木と、都内小学生とボランティアによってドングリから育てられた苗木である。
東京都では公園の管轄は建設局と港湾局に分かれ、日比谷公園や代々木公園などの都市公園は建設局の管轄、「海の森公園」は海上公園にあたるので、港湾局の管轄になる。海上公園とは、臨海部に位置し、海辺での磯遊びやスポーツができる、船着場や魚釣り場、キャンプ場などの施設をもつ公園とのこと。お台場海浜公園、有明若洲などの公園は、みな海上公園である。
「海の森公園」は、これら海上公園を造成、管理してきたノウハウを活かして造られる。臨海部の公園には、潮風に強い木を植えなければ育たない。この中央防波堤内側埋立地は、昭和48年から62年にかけて1230万トンのゴミを埋め立ててできたものである。植樹するにあたって、30メートルの小高い丘状の土地の上に堆肥によって土づくりされた厚さ1.5メートルの地層を重ねる。
ここにドングリから育つシイの木、マテバシイやスダジイを植えていくのだが、あらかじめ、海風にも強くこの地に植えるにも適している樹種を選んでいる。そういった常緑樹で埋立地周囲の防風、防塩の森を形づくり、中央の台地部には広場をつくりサクラなどの景観木を植える。計48万本の苗木を植える予定であるが、なかでは淘汰されたり枯れたりするものも出てくる。将来的に木が大きく育つことを考えて1平方メートルに1本の割合で植樹していく計画をたてている。


10年後、30年後の「海の森」の姿


▲緑の東京募金パンフレット

2016年のオリンピック会場として、この「海の森」地区は、馬術、ボートカヌー、マウンテンバイク・クロスカントリーの会場として使われることが計画されている。
ボートとカヌーのフラットウォーター競技会場は、中央防波堤外側の水路を使用。馬術は「海の森」のなかに競技会場が設置される計画だ。
この海の森はオリンピックの時点まで、どれくらい育っているのだろうか。現在の海の森では、平成8年の全国植樹祭で植えられた木が3〜5メートルの大きさに育っているというから、2016年の東京オリンピックが実現するとして、今年から植樹を始めれば、一部でも森らしい景観は実現するということだ。計画は平成19年から開始、平成28年には概ね森の形になるように、そして開始から30年間で完了を予定、最終的に完成すると日比谷公園の5.5倍、皇居とほぼ同じ広さの16ヘクタールの森が生まれる。
この森をつくるための募金の目標額は3年間で8億円。都民1人1人の募金からはじめて、企業などによる大口の募金に輪が広げられていく。このために、税制上の優遇措置なども含めて積極的な方針が立てられている。


「海の森」からさらに広がっていく東京の緑化プロジェクト

ゴミと残土で埋め立てられた島を、市民の力で海に浮かぶ森にする。「自分たちがつくり出したゴミの山を海の森にすることで、ゴミや産業廃棄物を出さないようにしようという意識を各人が持つようになれば」と、この「海の森」が循環型社会の見本になればよいと、発案者である建築家安藤忠雄氏も表明している。
東京都の「10年後の東京」の緑化プロジェクトは、「海の森」だけにとどまらず、今後ますます広がりを見せる。都内の街路樹は現状で約48万本。それを3年で70万本に増やし、10年後までに100万本に倍増させようという計画が立てられている。その一方、都内の公立小中学校の校庭を芝生化するなどで新たに1000ヘクタールの緑地を創出する。そのほか、多様な緑化事業を進めていく。
「緑の東京募金」の開始にあたり、10月22日に都庁大会議場においてシンポジウムが開催された。
冒頭の石原都知事のスピーチに続いて、パネリストからは、東京の緑化についてそれぞれの立場から個性的な発言が出た。宇宙飛行士の毛利衛氏は、宇宙から地球を眺めて、万里の長城と同様に「海の森」が認識できる日が来るのではないか、と。アルピニストの野口健氏は、この「海の森」を環境教育の場として、都会育ちの自然に触れる機会の少ない子どもたちに、人として生きるための“スベ”を教えていく場にもしたいと述べた。そして安藤忠雄氏は、世界中にこの「海の森」づくりの活動を発信し、「環境立国日本のシンボルにしていきたい」と力強く訴えた。 
「10年後の東京」プロジェクトの第一の柱に掲げられた「海の森公園」づくり。これから年を追うごとに、苗木が育ち、東京の街の緑が目に見えて増えていくことを想像すると、10年後、そして30年後の姿を早く見たいと願ってやまない。


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